車に積んで旅行先の足にしようなんていう思いつきで買ったブロンプトンがウチにある。思惑に反し、長らく使われていない。正直なところ、私の自転車趣味「外」のものである。が、ある出来事をきっかけに、この自転車についてもいろいろ書いてみようと思い立つに至った。

パンク修理すら誰にも頼めない

とある夕方、自宅から12kmほど離れた娘が通う高校まで行くのに、ブロンプトンを使ってみることにした。(ちなみに娘は、その往復24kmを自転車通学している)多摩川沿いのサイクリングロードをしばらく走ってから(なかなか軽快だ!)、橋を渡り都下C市に入る。

街道沿いをしばらく走っていると突然のパンク!出先の、それも往路でやられるとは・・・すでに8kmほど走っていた・・・しかし、捨てる神あれば拾う神あり。目の前に自転車店が鎮座ましましていた。

町の自転車屋の反応

その店は、通りがかりの一見では、仕事を頼みにくい感じがする地元密着店であった。自転車屋には珍しい、アロハ風シャツを着たチョイ悪な主人がいた・・・が、接客にはとっつきやすそうな若い店員が出てきた。ブロンプトンを見るや、チューブの在庫がないから修理できない、と即答。ここで引き下がっても後がない。「自転車を押して帰れるほど自宅は近くない」、「後からエア漏れしても文句を言わないから、応急処理としてパッチを貼ってほしい」、「チューブを出してからパッチ修理不能と分かっても、そこまでの工賃は払う」という旨を伝えると、シブシブ引き受けてくれることになった。

無事、バイクはラックに掛けられた。が、タイヤに刺さったままの古クギが見つかると、チューブの状態を見ないうちから、「こんな太いクギが刺さっていては絶対にチューブはパッチで直せない」と決めつけられ、作業中止となった。たった今、ダメでもなんでもタイヤからチューブを出してみる、という方針に合意したのではないのか?と思ったが、結局、ブロンプトンという特殊な(実際は思われているほど特殊ではない)自転車には触りたくない、否、触れない、ということなのだろう。ここで、すべての交渉をあきらめることにした。

駅前のオシャレな自転車屋の反応

意気消沈しての帰り際、その一部始終を見ていた強面の店主は、意外にも、C駅前にその手の自転車を扱った店があるから行ってみろ、と教えてくれた。C駅って、一体どこなんだ?地元じゃないから分からねえよ、なんて不貞腐れた気分になったが、拍子抜けするほど近くにあった。C駅はC市の中心として繁栄を誇っており、駅前ビルにはオシャレな自転店が2店も営業している自転車天国でもあった。期待しつつ店に入ると、若い店員はブロンプトンを見た途端、「チューブの在庫がないから修理できない、チューブは注文できるが時間はかかる」とお決まりのセリフを言い、パッチ修理を頼もうにも、「パッチ修理はしない」という店の方針を表明・・・もはや、次の店を訪ねる気力は失せていた。とはいえ、他人のせいにしても仕様がない・・・パンク修理キットを持たなかった私がバカだったに過ぎない・・・

ここまで来たら、パンク修理キットを手に入れて自分で修理をする・・・あるいは、自転車はブロンプトンだ。畳んで輪行を強行してしまうこともできよう・・・ここが自宅からはるか遠い地であれば、なんとかしようと足掻いただろう。そこまでする必要はない。すでに、当初の予定はぶっ飛んでしまっている。幸い、C駅前は暇つぶしにうってつけの場所だった。妻の仕事が終ったら車で回収に来てもらうことに決めた。

量販店の反応はどうなんだろう?

後日、グーグルマップでC駅周辺を確認すると、量販店の「あさひ」も近くにあることが分かった。ここは先の3店とは業態が大きく異なるゆえ、訪ねてみる価値あったとみる。ブロンプトンは取り扱いにないが、似たようなダホンは扱っており、風変わりな折り畳み車への偏見も少なそうだ。チューブの在庫はないにしても、パッチ修理を受け入れる柔軟さがある印象なのだが・・・どうなんだろう?

パッチ修理拒否に対するフォロー

上でさんざん文句を言ったが、実のところ、自転車屋がパッチによるパンク修理を拒否する事情は理解できなくもない。パッチ修理では、履歴不明の中古チューブを相手にする以上、修理に失敗する可能性がある。その原因は、作業者のミスの場合もあるし、避け難い宿命的、運命的な場合もある・・・なんにせよ、失敗しようものなら、お互いの時間のみならず、自転車屋は自身の信頼さえも失いかねない。わずかな小銭のためにそんなリスクを負うのは愚かだ。新品のチューブに交換さえすれば、そのリスクはほぼ100%取り除けるのだから、そうしない理由はない、という経営判断は首肯できる。

しかし、今回のような出先で起きた緊急事態の場合、ノークレームという条件で構わないので、パッチを貼ってくれても良いのでは・・・とも思う次第。

自身のトラブルは自分で解決するしかない

この一件は、そう肝に銘じる良い機会となった。二度とあんなクダらないことで時間を浪費したくない。同じ思いをしたブロンプトン乗りは少なくなのではないだろうか?これが、冒頭に書いた、この自転車について書いてみようと思い立った動機である。
 

チューブは余裕でパッチ修理可能だった

パンクしたタイヤから純正チューブ(チェンシン製)を引っ張り出してみると、穴はパッチ修理で問題なく使える程度と判明した。(画像の古クギは、実際にタイヤに刺さっていたもの)チューブの状態も良かったので、パッチ修理することにする。

しかし、あの日、この程度のパンクに、なんであんな大騒ぎになったのだろう。
 

ブロンプトンのタイヤは特殊なのか?

ブロンプトンに使えるタイヤ&チューブは、ブロンプトンの公式ページ(https://bromptonbicycle.jp/news/tire-tube/)で紹介されている。

そこには

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          16×1 3/8 (35-349)
          16×1.35  (35-349)
          16×1 1/3 (35-349)
          16×1 1/4 (32-349)
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の4種のタイヤが推薦されている。

すべて「16インチ」径、幅のみ「1 3/8インチ(34.9mm)」、「1.35インチ(34.3mm)」、「1 1/3インチ(33.9mm)」、「1 1/4インチ(32.0mm)」のバリエーションを持つ。

同じ折りたたみ自転車で有名な「ダホン」にも、16インチタイヤを持つモデルの設定があって、

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          16×1.50 (40-305)
          16×2.00 (50-305)
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となっている。タイヤ幅に、「1.50インチ(38.1mm)」あるいは「2.00インチ(50.8mm)」が選ぶことができる。

ダホン用の太いタイヤはブロンプトンのフォークに干渉して入らない可能性があるにしても、同じ16インチなんだから、リムに装着だけはできてもおかしくない、と考えるのは自然なことだ・・・が、実際には、ダホン用タイヤはブロンプトンのリムに装着できない。(その逆も同様)

というのも、ここでいう「16インチ」とは、タイヤ内径(リム径)ではなく、タイヤ外径のことだからだ。この場合、タイヤ幅が増えれば、タイヤ高も大きくなり、必然的にタイヤ内径は小さくなる。かように、市場には同じ16インチ表示ながら、内径の異なるタイヤが存在することになる。(クルマやオートバイの世界では、16インチタイヤと言えば、リム径が16インチであるから紛らわしい)

しかし慌てることはない。併記してある(xx-xxx)の数字を見ればよいのだ。最初の2桁がタイヤ幅(mm)を、次の3桁がタイヤ内径(mm)を示している。つまりブロンプトン用タイヤの内径は349mm、ダホン用タイヤの内径は305mmと分かる。

タイヤやチューブを選ぶとき、この「2桁+3桁」の数字を指針とすれば間違いはない。

W/OとH/E、そしてETRTO

自転車用タイヤの規格には、ヨーロッパ発祥のW/O(Wired On)と、US発祥のH/E(Hocked Edge)がある。W/OとH/Eでは、ビード構造が異なるため、本来、互換性はないのだが、現在はその差異は吸収され、ユーザーが適合を意識しないで済むようになっているという。

となると、2つの規格の存在は、ただただ紛らわしいだけなのだが、歴史的経緯の産物で、もはや如何ともし難いようだ。それらを補完するために「(タイヤ幅 mm)-(タイヤ内径 mm)」で表記するというETRTO(エトルト:European Tyre and Rim Technical Organisation)という表記規格が作られた。ETRTO表記は、W/OあるいはH/E表記に併記されている。(タイヤ内径は、ビードシート間の直径(BSD:Bead Seat Diameter)で定義される)

表記規格をまとめると以下の通りとなる。

35-349のチューブを手に入れろ!

リアル店舗では、在庫がない・・・というより、在庫を持つつもりはない、と言われたブロンプトン用チューブだが、さすがにネット通販には在庫はあるだろう、とタカをくくってみたものの、めぼしいサイトでは、どこも「お取り寄せ」であった。コロナ禍中だから待たされるかなあ、と心配されたが、1週間もしないうちに届きましたね。(パナレーサー製。生産国はタイでした)

米式(シュレーダー)を仏式(フレンチ)バルブに変更するのが自転車マニアの定石のようだが、米式のままでいいんだよ、米式のままで!

ただし、オリジナルが英式(ウッズ)だったら、私も間違いなく、仏式に変更したことでしょう。


  

スターメー・アーチャー!!

今回の作業で気づいたのだが、ブロンプトンは変速機にシマノではなく、「スターメー・アーチャー」を採用している。英国製自転車の意地といったところだろうか?

これが多くの自転車屋をビビらせている原因のひとつなのだろう・・・

現在、我が世の春を謳歌しているシマノも、彼らの基礎となった「3スピードハブ」は「スターメー・アーチャー」製内装変速機のコピーだった。彼らは自身のサイトにその事実を隠さず書いている。

https://www.shimano.com/jp/100th/history/products/result.php?id=2

(以下抜粋)シングルフリーホイールの次なる市場として、(略)1954年に外装3段変速機を発売。しかし、(略)シマノは外装変速機の製造から撤退を余儀なくされました。次に手掛けたのが、(略)内装変速機でした。(略)1957年、内装変速機「3スピードハブ」を発売。初代モデルは海外製品を参考に製造しましたが、(略)翌1958年、軽量化、コンパクト化を実現したモデルを発売します。1960年には(略)、グリップを握りながら変速のできるツイストタイプのシフターを世に送り出し、(略)内装変速機がシマノにとって主力製品に育っていきます。(抜粋終わり)

1957 Shimano 3 speed hub

1955 Sturmey-Archer 3 speed hub

 

外装2速と内装3速、それらを組み合わせた6速がある

ブロンプトンは、リアにのみ変速機構を持ち、リアハブに組み込まれた「内装3速」、簡単な構造の「外装2速」、そして「内装3速と外装2速を組み合わせた3×2=6速」の3種類が用意されている。

6速仕様が最も販売台数が多いと思われる。次点は、内装3速のハブの重さを嫌った層に支持される2速であろう・・・3速が一番数が少なそうだ。(積極的に3速を選ぶ理由があるなら知りたいところ)

6速、3速、2速の基本構造は同じ、すなわち、チューブ交換で要求される作業も基本的に同じ、ということを示すために、以下にその3種の画像を並べて比較してみる。

6速

  A:チェーンテンショナー
  B:チェーンテンショナー・ナット
  C:外装2速変速機
  D:2段リアスプロケット
  E:ハブ内装3速変速機

3速

  A:チェーンテンショナー
  B:チェーンテンショナー・ナット
  C:(なし)
  D:シングル・リアスプロケット
  E:ハブ内装3速変速機

2速

  A:チェーンテンショナー
  B:チェーンテンショナー・ナット
  C:外装2速変速機
  D:2段リアスプロケット
  E:(なし)

上のチェーンテンショナー・ナット(B)にはカバーが掛かっており、普通のナットがカバーの下にあるます。念のため。

なおブロンプトンのモデル命名法は明快で、

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1文字目  M / S      ハンドル形状   M:U字 S:フラット
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2文字目  2 / 3 / 6  変速数       
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3文字目  L / R      リアキャリア   L:なし R:あり
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となっている。

この文法に則れば、私のバイクは「M6R」に当たる。ちなみに色は、ラグーンブルー。

さて、次の稿では、以上を踏まえて実際にパンク修理を行ってみよう。